いつか淡い恋の先をキミと
考えても仕方のないことだと一蹴出来たらどれだけ楽だろう。


『向日葵の太陽』を手にとって開いてみた。


一番最初のページはプロローグらしい。


【田舎では蝉の鳴き声が五月蝿かった。ミンミンと一週間の命を大切にそして尚且つ後悔しないようにしているのかと思う程の声はやけに切実な気がした。周りを見渡せば一面が畑や山が広がっているこの地域では生きる為に生活するのが当たり前なのかもしれない。自分がどこまでのぼり詰めることの出来る人間なのかを試したり、私利私欲の為に仕事をする人がこんなところには来ないだろうと勝手な思い込みがそう感じさせる。
少し歩きながらカンカン照りもいよいよ熱中症を引き起こしそうだなと心配になってきた頃、畑のすぐそばでそこだけ向日葵が何十輪も植えてある場所があった。思わず立ち止まって周辺を見ると木で出来た看板が立てられている。
そこには『私はあなただけをみています』の文字。有名な花言葉なだけにわざわざ植えた人が書いたらしい。向日葵は太陽だけをみているのよ――過去の自分の言葉が蘇ってきた。本当の向日葵は夏に咲くのね、なんてことを思いながら。
向日葵の太陽は今でも輝いているのに、私の太陽はもう――。
そう遠くない過去を思い返しながら、西野向日葵は意識を失った。】


読む気はなかったのに思わず読んでしまったプロローグに、先を続けて読んでしまいたい衝動に駆られた。


「くるみ、入るぞ」


そして次のページを開こうとしたその時、ノックの音が聞こえたと同時に陽平くんが姿を現した。


「陽平くん…どうしたの?」


「なにしてんだ」


「……」


急に変わった声のトーンに驚いて言葉が出ない。


「なにしてんだって聞いてんだよ」


「……な、なにしてるって、本を読んでただけだよ……」


私に出されることはないと思ってた凄みのある声に自然と喉から発せられる声も小さくなった。
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