いつか淡い恋の先をキミと
「本なんて読んでどうすんだよ」


「……え、っと」


「過去なんていらねえっつっただろ!」


「……ごめんなさい」


「もういい、勝手にしろ!」


「陽平くん…っ!」


ドアを勢い任せに閉めて出て行き、何かに取り憑かれたかのように怒った陽平くんを見て正直唖然とした。


だけど理由はわからないけど、私が悪かったのだと、漠然とそう思った。


無意味に怒ったりしないことは分かったばかりだから。


理不尽な怒り方はしないと陽平を見て知ってるから。


だから――私は追いかけないといけない。


陽平くんに放っておかれたら私はどうしていいのか分からなくなる。


たとえて言うならそれは、ちょっとずつ埋まりかけてた穴がまた開くような感じ。


そんなの絶対にやだ。


自分本位な考えかもしれないけど、私には陽平くんが必要なのは確か。


今の私に分かるのはそれだけ。


『向日葵の太陽』を本棚にしまうことも忘れ、手に持ったまま急いで部屋を飛び出し、部屋着の上にパーカーだけを羽織って玄関を出た。


左右を確認すると左の方に陽平らしき人の影が見えた。


迷いなんかなく左の方向へ走り出した私に陽平くんが気づく気配は全くない。


「陽平くんっ!」


三回に渡って叫んだ声は最後の方になると掠れて聞こえた。


絶対気付かないわけがないのになんで。


そんなに私のことが嫌になっちゃったの。


ねぇ、陽平くん。


そして息を絶やしながら、ようやくTシャツの裾を掴める距離までになり、私はそれを勢いよく掴んだ。
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