いつか淡い恋の先をキミと
私本当に誰にも何もしてあげられない――。


「くるみ、トイレ行こトイレ!悠実も行くよ!」


何か気の利いたことも言うことができなかった私に響子ちゃんがそう言いながら、私をトイレに連れてった。


「やっぱりトイレの場所は把握しとかないとね!」


無理に明るく振舞ってくれてる響子ちゃんに無性に謝りたくなった。


ごめんね、そんな気を遣わせてごめんね。


「くるみ、大丈夫だよ。誰もくるみを責めたりしないよ」


悠実ちゃんも優しい言葉をかけてくれるのに。


「……、」


私は何も出来ない。


思わず泣きそうになって、でもその顔を見せてまた心配をかけるのが嫌で、トイレを飛び出した。


飛び出して左に曲がったから、当たり前だけどそこはさっき私たちが入った教室があって、入ることも出来ずに聞こえてくる声に耳を澄ました。


「じゃあやっぱり一ノ瀬が記憶を失くしたって噂は本当だったんだな」


「ねー、ほんとびっくり!」


「マジで何も覚えてないのかよ」


「でもあの様子じゃ何も覚えてなさそうだよね」


「翼たちのことも覚えてなかったんだろ?」


「うん、誰のことも何も覚えてなかった」


「そんなドラマみたいなことあるんだな」


「ほんとそうだよね!」


「ドラマみてえとか言うんじゃねぇよ。こっちは真剣にくるみのこと考えてんだ。お前らみたいに適当にあいつの心配してんじゃねぇんだよ」


「て、適当って…!あたしだってちゃんとくるみのこと心配してるよ!」


「どうだかな」


「そういうあんただってくるみが記憶を失くしたおかげで今そばにいられるんじゃないの」


「なんだと?」


「だってそうじゃない!みんなだってそう思ってる!」
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