目覚めたら、社長と結婚してました
 わざとらしく明るく告げてくる奈々に私は返答に迷う。だからって記憶をなくしているなど話したら、余計な心配をかけてしまうだけだ。

「いつも優しくしてもらってるよ」

 当たり障りのないコメントをすると、奈々はニヤニヤと笑った。

「へー。ベッドの中でも?」

「そうだね」

 なんの躊躇いもなく素直に答えた。するとなぜか奈々が虚を衝かれた表情になる。その反応に私も首を傾げた。

「はー。あの柚花が……そうか。これはリアルに、柚花の子どもが見られる日もそう遠くはなさそうね」

「なっ」

 独りごちた奈々に、私の顔は火がついたように熱くなる。どうやら私は彼女の含んだ言い方に気づかず意味を取り違えていたらしい。

 怜二さんは同じベッドで寝るとき、私が眠るまで優しく抱きしめて、キスをしてくれたり、髪をなでてくれる。これも十分にノロケになると思うが、奈々の言っている優しさとは全然違う。

「あの、そういう意味で言ったんじゃなくて」

 慌てて否定する私に、奈々は払いのけるようにこちらに手の甲を向けて振った。

「はいはい、照れなくていいって。私たち、もう高校生じゃないし、いい大人なんだからわかってるって」

 もうどう取り繕えばいいのか言葉が浮かばない。結局私たちはそれから自分たちの話よりも、仲のいい共通の友人の近況を報告し合ったり、高校時代の思い出話に花を咲かせて盛り上がった。
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