目覚めたら、社長と結婚してました
 奈々に久しぶりに会えて、楽しかったな。

 帰宅後、どっと疲れが押し寄せてきて私は素直にソファに横になった。怜二さんは会社に頭を出しているので、今はマンションにひとりだ。

 頭に霞がかかったかのようで、奈々とのやりとりが浮かんでは消えていき、どこか夢見心地に思い出される。それにしても、いろいろと勘違いをしたし、させてしまった。

 ベッドの中でも優しいって、私……。

 思い出して赤面し、体の向きを左右に変えてみる。

 いや、だって。結婚しているとはいえ、私は怜二さんのことを覚えてもいないし、一緒に住み始めてまだ一週間で……。

『すごく謝ってくれたし、悪気がないのもわかっているけど……やっぱりショックだよね、忘れられるって』

 ふと奈々の表情と言葉がリアルに脳裏に蘇り、うしろからどんっと突かれたような衝撃を感じた。とっさに私は体を起こし、頭を抱える。

 ……私も、同じじゃない。

 わざとじゃない。もちろん悪気だってない。けれど現に私は怜二さんのことを忘れてしまった。

『本当に、なにも覚えてないのか?』

『少し安心した。お前は俺のところにもう戻ってこない気がしてたから』

 もしも結婚した相手が結婚したことも、それどころか自分とのことも覚えていなかったら、誰だってショックを受けるに決まっている。

 私、自分のことばっかりで、怜二さんの気持ちを考えてなかった。

 胸が締めつけられるように痛む。彼は私が記憶をなくしてどう思ったんだろう。
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