目覚めたら、社長と結婚してました
 きっと私が思い出したいのと同じように、彼だって私に記憶が戻ることを願っているはずだ。それなのに私を気遣って無理をさせることもしないし。優しくしてくれる彼に私は甘えっぱなしだ。

 私はぐっと強く握り拳を作った。そして心の中でひっそりと誓う。

 思い出すのが無理でも、せめて記憶をなくす前みたいに普通の結婚生活を送れるようにしないと。でも、普通ってなんだろう? 私は彼とどんなふうに過ごしていたのか。

『柚花の子どもが見られる日もそう遠くはなさそうね』

 顔に熱がこもるのを感じながら、私はソファの上でぎゅっと膝を抱えた。


 怜二さんが帰ってきてふたりで夕飯を食べながら、私奈々と会って楽しかったことを彼に話した。詳しくどんな内容を語り合ったのかまではさすがに言えないが。

 お風呂に入ってベッドでゴロゴロしながらも私は気が休まらずにいた。

 悶々とする気持ち振り払いたくて、ベッドボードに背中を預けて私の左隣で本を読んでいる怜二さんにこっそりと視線を送る。

 私も本を読みたいけれど、今日は疲れていて活字が頭に入ってこない。それにきっと内容に集中できないだろうし。

 仰向けになっている私は見上げる形で彼に尋ねた。

「怜二さんの誕生日っていつですか?」

「……五月十六日」

 本を読んでいるからか端的な返答がある。日付を再度頭に刻み込み胸を撫で下ろす。よかった、まだ先だ。
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