目覚めたら、社長と結婚してました
 息が続く限りできるだけ長く重ねて、唇が離れた瞬間、私は彼の肩を思いっきり押した。不意打ちだからか、怜二さんは目を丸くし、私に促されるままにベッドに背中を預ける。

 その勢いで私も倒れ込む形で彼の上になる。ベッドに手を突き、一般的に「押し倒す」という格好になった。

「どうした?」

 なんでもないかのように下になっている怜二さんから声がかかった。

「お、襲ってみました」

 発言して羞恥で顔から火が出そうになる。速すぎる鼓動は、なにもしていないのに息切れをもたらす。しばし見つめ合う形になり、先に口を開いたのは怜二さんの方だった。

「で?」

「え?」

「襲うんだろ。どうするんだ?」

 襲われている側が言う台詞ではない気がする。冷静に尋ねられ、私は狼狽えた。

「どう、って……」

 そこで言葉を飲み込み考えを巡らせる。ややあって私は、ゆっくりと彼との距離を縮めて唇を重ねた。

 いつも彼がしてくれるキスを思い出し、自分から触れるだけの口づけを角度を変えながら何度か繰り返す。どうしてもぎこちなさは拭えなくて、自分のしていることを意識すると恥ずかしさで涙腺が緩みそうだ。

 怜二さんはというと私が口づけする間、私の頭を撫でて、されるがままでいてくれた。

 そっと怜二さんから顔を離す。涼しい表情の彼に対し、私は浅い呼吸を繰り返し眉尻を下げた。余裕の差にますます息が詰まりそうになる。
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