目覚めたら、社長と結婚してました
 私は彼の形のいい額に自分の額を重ねるようにして、情けない声で聞いた。

「あの、怜二さん。ちなみにここからどうしたらいいんでしょう?」

「それを俺に聞くのか」

 まったく動じていない声で答えが返ってくる。彼の言うことはもっともだ。でも、しょうがない。

「だって私、男の人を襲ったことなんてないんです。察してくださいよ」

「そう何回もある方が驚くな。お前は痴女か」

「そ、そんなわけないでしょ! って、この体勢で言うのもなんですが」

 こんな状況になっても全然艶っぽい雰囲気にならない。これはどう考えても作戦は失敗だ。

「もう。人がどんな思いで……」

 自分のしていることが、どこまでも滑稽に思えて私は顔をくしゃりと歪めた。口をもごつかせていると、いつのまにか背中に回されていた腕に力が込められ、勢いよく体勢を戻される。

「どんな思いなんだ?」

 抱きしめられるようにして彼に尋ねられた。その表情は打って変わって真剣で、眼差しも力強い。おかげで私はどう答えればいいのかわからなかった。

「抱いて欲しいんだったら抱いてやる。でも他人にあれこれ言われたからだとか、俺に気を使ってとか、そんな理由だったら手は出さない」

 宣言するようにきっぱりと言われ、私は目を瞬かせた。
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