目覚めたら、社長と結婚してました
「な、なんでですか? 私たち結婚してるんだから、そういうことは当たり前だったでしょ?」

「そうだとしても、今のお前にとっては当たり前じゃないだろ」

 また私の胸は針で刺されたような痛みを覚えた。だからか、続ける声が震える。

「……だって私、全然思い出せないから」

 今のままじゃいけない。早く思い出さないと。それが無理なら、怜二さんにとって以前のような私にならなきゃ。今の私は彼にとって……

「誰が思い出せって言った」

 思考を遮るように、低い声が耳に届く。私はおそるおそる怜二さんと目を合わせた。

「記憶があってもなくても、柚花は柚花だろ。今のお前が、自分で俺のそばにいることを選んで、こうして隣にいてくれるならそれで十分なんだ」

「でも……」

 反論の言葉はキスで封じ込められる。さらには強く抱きしめられ逃げることは許されなかった。なかなか解放されず、息が苦しくなって軽く彼の胸を叩いて訴えると、一度唇が離される。

 ホッとする間もなく再び口づけられた。重ねるだけではなく、軽く舌で唇を舐めとられ、私は驚きのあまり体をすくめる。

 すると彼は少しだけ腕の力を緩めて、キスを中断させた。

「思い出せないならそれでいい。だったら覚えろ」

 なにを?というのは声に出せないまま、口づけが再開される。強張っていた体が彼の言葉のおかげで少しだけほぐれた。
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