目覚めたら、社長と結婚してました
 いいのかな。私、今のままでも。今の私でも……。

 結んでいた唇の力を抜くと、舌が差し込まれて口内を刺激されていく。初めての感覚に戸惑いつつも、不思議と嫌悪感はなかった。

 どこか試すように舌を絡めとられ、私はぎこちなく受け入れる。

「ふっ……ん……」

 自分のものとは思えないような甘い声が勝手に漏れて、恥ずかしさで苦しくなる。

 怜二さんはキスを交わしながら、今度は私を自分の下に滑り込ませるようにして体勢を変えた。

 ベッドの軋む音がかすかに聞こえたが、今は気にならない。より密着して伝わってくる体温も彼の重みも心地よかった。

 こちらの様子を見ながら交わされる口づけは、確実に私を蕩けささる。次第に焦らされているようにさえ思えて、私は求めるように彼の首に腕を回した。

 怜二さんは応えるように目を細めて、私の頭を撫でる。そのことにひどく安心して、泣きそうになった。

「んっ…………ん」

 唾液の交ざり合う音と、くぐもった声が部屋に響く。名残惜しげに唇を離され、私は肩で息をしながらじっと彼を見つめた。長い睫毛に縁取られた漆黒の瞳が私を捕らえる。

 ここから、どうするんだろう。……どうなるんだろう。

 もっとして欲しいという気持ちと、この先を知らない不安が自分の中でせめぎ合って揺れ動く。それを落ち着かせるかのように、怜二さんは私の頭をそっと撫でた。

「手を出さないって言った手前、ここらへんが潮時だろ」

 なにかに耐えるような言い方だった。彼の目も、声も、まとっている空気さえ熱っぽくて、あてられて胸が苦しくなる。
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