目覚めたら、社長と結婚してました
「おしまい、ですか?」

 切れ切れに尋ねると、彼は苦虫を噛み潰したような顔になった。

「お前な、煽るなよ。そんな顔をしてよく言う」

 どんな顔をしているの? 私は今、彼が止めてしまうほど弱気な顔をしているのだろうか。

「……でもキスも自分からできたから。体は覚えているかもしれませんよ」

 我ながらすごい台詞だ。

「覚えてなかったら、どうするんだ。無理するところ間違えてるだろ」

 彼の諭すような口調に少しだけ安心したのも本当で、私は平静さを徐々に取り戻す。

「そのときは、そのときですよ」

 怜二さんは呆れたように息を吐いた。

「相変わらず、恐ろしくポジティブだな」

「ふふ。どうぞ見習ってください」

 おどけて言ってから、妙な既視感を覚える。私は前にも彼とこんなやりとりを交わした気がする。でも、どこで――

 怜二さんは私の髪に指を通し、そっと耳にかけた。

「結婚しているからって好きでもない男と寝ようとするなよ」

 なんで、そんな悲しそうな顔で言うんだろ。私の行動は間違ってたのかな? 結局キスだけで終わってしまったし。

 ただ、今までにない深くて痺れそうなキスだった。

「違い、ます。私……」

 それ以上、声にできない。急激な睡魔が襲って続きを阻む。待って、彼に言わないと。私、どうして怜二さんにそんな顔をさせてばかりなんだろ。私のこと――だから?

 徐々に意識がフェードアウトする。瞼に口づけを落とされ、静かに目を閉じた。
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