目覚めたら、社長と結婚してました

【4th piece of memory】

 十月に突入し気候的にもかなり過ごしやすくなった。紅葉の季節だ、なんて言われたりするのに会社近くの通りに並ぶ木々は色づくどころか葉を散らせて、どちらかといえば道が染まっている。

 あれは絶対に植える木を間違えたんじゃないかと思う。 

「平松、シュテルン社から例の基幹業務システムについての問い合わせ」

「はい。ありがとうございます」

 先輩に指示され、私は内線の電話と取る。先月から新たに大手企業の社内システムの担当を任されることになり、忙しさと仕事の責任が増していた。

「新しいデータベースの管理システム、今のところは上手くいっているけど、やっぱりセキュリティ面が懸念されるよね」

「共有する範囲が広がれば広がるほどリスクも比例するから、そこはいかに実績を作るかじゃない」

 昼休みに入り、雑談混じりに仕事の話をしながら同僚と一緒に社内のカフェテリアに足を進める。

 そういえば、怜二さんの話していた案件はうまくいったのかな。

 展望台に連れて行ってもらったのをきっかけにあれから怜二さんとは、何度か一緒に出かけた。正確には出かけたというよりバーの後、彼が私のしてみたかった夜遊びに付き合ってくれているだけ。

 この前は、プラハの伝統的な有名店をモチーフにしたカフェに連れて行ってもらった。夜しか開いていなというカフェは本家さながらのタイル装飾が見事で、新しいはずなのに重厚な雰囲気を醸し出していた。

 ここを選んだ理由はプラハのカフェが舞台となった小説を読んで、話題になったからだ。
< 111 / 182 >

この作品をシェア

pagetop