目覚めたら、社長と結婚してました
私はすっかり小説の中に入り込んだ気持ちで、コーヒーを飲みながら怜二さんに話しかけた。
『……この後、ここで殺人事件が起きるわけですね』
『その展開は願い下げしておけ』
すかさずツッコまれ私はくすくすと笑った。彼と話すのは本の話はもちろん他愛ないことが多かった。今ならお店のことや飲んでいる飲み物について。話題はそこらへんに転がっている。
社長と話すなら、もっと有意義な内容がいいのかもしれない。彼は普段、他の女性とどんな話をしているんだろう。
その問いは口にはしなかった。今、彼と過ごす時間が心地いいことには間違いなくて、あえて雰囲気を壊すことも、踏み込む権利も私にはない。
怜二さんはどうなんだろう。私と過ごすこの時間をどう感じているのか。それもやっぱり聞けない。
お互い仕事の話もあまりしないので、私は例の件について尋ねることもなかった。
「そういえばこの前、社長を見かけてね」
ふと、このタイミングで彼の話題が出されたことに私は思わず目を見張る。しかし話を切り出した本人はあまり気にしておらず、もうひとりの同僚が目を爛々とさせた。
「え、どこで? 私、本物を間近で見たことないんだよね。社内で偶然すれ違うことを期待しているけど、会社も広いし、その機会がなかなか訪れなくて」
おどける同僚に、彼女は苦笑して続ける。
「私も会社ではないよ。外で遠目に見つけただけ。ほら、社長の外見って目立つし。さらに連れている女性もすごく綺麗な人だったから目を引いたの」
彼女のなにげない発言に、私の心が揺さぶられた。
『……この後、ここで殺人事件が起きるわけですね』
『その展開は願い下げしておけ』
すかさずツッコまれ私はくすくすと笑った。彼と話すのは本の話はもちろん他愛ないことが多かった。今ならお店のことや飲んでいる飲み物について。話題はそこらへんに転がっている。
社長と話すなら、もっと有意義な内容がいいのかもしれない。彼は普段、他の女性とどんな話をしているんだろう。
その問いは口にはしなかった。今、彼と過ごす時間が心地いいことには間違いなくて、あえて雰囲気を壊すことも、踏み込む権利も私にはない。
怜二さんはどうなんだろう。私と過ごすこの時間をどう感じているのか。それもやっぱり聞けない。
お互い仕事の話もあまりしないので、私は例の件について尋ねることもなかった。
「そういえばこの前、社長を見かけてね」
ふと、このタイミングで彼の話題が出されたことに私は思わず目を見張る。しかし話を切り出した本人はあまり気にしておらず、もうひとりの同僚が目を爛々とさせた。
「え、どこで? 私、本物を間近で見たことないんだよね。社内で偶然すれ違うことを期待しているけど、会社も広いし、その機会がなかなか訪れなくて」
おどける同僚に、彼女は苦笑して続ける。
「私も会社ではないよ。外で遠目に見つけただけ。ほら、社長の外見って目立つし。さらに連れている女性もすごく綺麗な人だったから目を引いたの」
彼女のなにげない発言に、私の心が揺さぶられた。