目覚めたら、社長と結婚してました
「しかも『Sempre(センプレ)』の前だったからびっくりしちゃった。彼女にプレゼントするためだったのかな。ブランドの小袋を持ってたし」

 センプレは国内では名の知れたアクセサリーブランド名だ。カジュアルさと上品さを兼ね備え、個性的なデザインは女性の間で人気を呼んでいる。

 そんなところに女性とふたりでいたら、同僚の推測はおおよそ当たっているんだと思う。動揺を顔に出さないようにし、黙ったまま彼女たちの会話に耳を傾けたままでいた。

「へー、意外と社長ってまめなんだ。いつも選ぶのはモデル顔負けの美人ばっかりって聞くけど、長続きしないんでしょ? だらしないというより社長の場合はドライなんだよね」

「そろそろ年齢も年齢だし、本気なんじゃない?」 

「あの人、結婚する気あるの?」

「立場的にしないってことにはならないだろうけど、どうなんだろうね。選びたい放題だし」

 そこで違う話題に切り替わる。べつに今更の話だ。こういった社長の、怜二さんの話は今までだって聞いたことがある。本人だって自分で言っていたくらいだし。

 結婚する気になったのかな?

 変だ。なんだろう、この気持ち。怜二さんが誰とどんな関係を築いていても私には関係ない。彼のことで心を乱されることはひとつもないし、あってはならないはずなのに。

 私はそっと自分の耳たぶに触れる。やっぱりピアスはつけていない。

『せっかく開けたんだろ。なんかつけとけよ』

 今月末は誕生日だし、やっぱりひとつくらい自分のために買おう。

 でも、それは彼に言われたからじゃない。このままだとせっかく開けたピアスホールが無駄になってしまうからだ。
< 113 / 182 >

この作品をシェア

pagetop