目覚めたら、社長と結婚してました
「最後の最後でこんな展開ってひどくないです? しかもここにきてルチアに婚約者がいたなんて」

 カクテルグラスをぐっと握りしめ、私はカウンターに項垂れる。

「もう酔ったのか」

「酔ってません! 衝撃を受けてるんです」

 隣の席の怜二さんを軽く睨む。今日のカクテルはヨーグルトリキュールをトニックウォーターで割ったものに冷凍の苺が入れられている。どちらかといえばデザート感覚で色合いも可愛らしい。

 怜二さんに借りている『リープリングス』も残すところ今日借りたのを入れてあと三巻となった。

 最後に起こる事件は、やはりそれなりのものだと予想はしていた。しかし衝撃度は予想以上だ。信じていた人物の裏切りなどもあって、先を知りたいような、知りたくないような展開になっている。

 さらに肝心の主役ふたりの恋愛は一向に進みそうもない。もうどうなってしまうのか。

「そういえば柚花ちゃん、結局この夏には外国旅行はしなかったんだね」

 近藤さんに声をかけられ、私は面を上げた。

「はい。国内の行きたかったところにしました。今月末の私の誕生日に合わせて両親が帰国するんです。だから、夏に会いに行かなくてもいいかなって」

「そっか。久々にご両親にお祝いしてもらえてよかったね」

「もう、そんな年でもないんですけどね」

 近藤さんの笑顔に私は苦々しく返しグラスを見つめた。今月末で私も二十六か。
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