目覚めたら、社長と結婚してました
 いつもより早めに私はバーを切り上げることにした。怜二さんと話す内容はやっぱり本の感想ばかり。仕事の話はおろか、プライベートなこともほとんどない。でも、それでいいんだ。

「おい」

 バーを出て、エレベーターのボタンを押す前に彼に声をかけられ私は踵を返した。

「なんでしょうか?」

「これを、お前にやる」

 白い箱に青いリボンのかかった小さな箱を差し出され、私は彼の顔とそれを交互に見遣った。

「もうすぐ誕生日なんだろ?」

 訳がわからなという顔をしている私に怜二さんは面倒くさそうに補足する。私はここでようやく反応を示した。

「結構です! いりません」

 やや大きめの声で拒絶するように告げると、彼は意外そうに目を丸くした。

「……また、随分な反応をするな」

「私にまで気を使ってくださってありがとうございます。でも怜二さん、ほかにもプレゼントする女性はいっぱいいるでしょ? そちらにあげてください」

『連れている女性もすごく綺麗な人だったから目を引いたの』

 彼はまめな人だ。誕生日だからって私にまでプレゼントを用意してくれるなんて。これは他の女性のついでかなにかだろうか。

 金曜日は、たまたまここで過ごす時間が重なっているだけ。私の知らないところで彼はたくさんの女性に会っていて、こういうのを渡すのだって、たいしたことじゃない。

 現に違う女性にもプレゼントをしていたみたいだし。
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