目覚めたら、社長と結婚してました
 その他大勢の女性と同じ扱いなら、逆に深く考えずに『ありがとうございます』と告げて、素直にもらえばいいのかもしれない。

 それこそ彼好みの可愛い女性の反応だ。ただ、その流れで受け取るのが私はどうしても嫌だった。

「これはお前にだから、いらないなら捨てる」

 ため息混じりに放たれた言葉に、私は少なからず心が揺れる。

「そ、そういう言い方はずるいと思います」

「なら素直に受け取れよ。拒否するにしろ、せめて中身くらいは確認しろって」

 中身の問題ではないのだけれど……。彼の言い分に押されつつ私は渋々箱を受け取る。そして丁寧にリボンをほどいていった。

「これ……」

 思わず息を呑む。箱はケースになっていて、中には小さな花を象ったピアスが収められていた。小ぶりで可愛らしくパールの白さが際立つ。

「柚子の花みたい」

「柚子の花は白いんだろ?」

 私の呟きと彼の言葉がかぶる。怜二さんに視線を移せば、彼はふいっと視線を外した。

「俺はデザインとかあまり興味がないからな。そういうのに詳しい知り合いに頼んで用意してもらったんだ。センプレは様々なデザインを扱っているからそれっぽいものを言っておいた」

 もしかして怜二さんがセンプレの前で女性と会っていたというのは……。

「どうして私にここまでしてくれるんですか?」

 自惚れかもしれない。お店の前で会っていた彼女が本命なのかもしれない。でもこのピアスを私のためにわざわざ用意してくれたのは事実だろうから。

「この前、話していた件なんとか上手くいった」

 疑問には別の話題が振られる。気にしていた例の件についてだったので私は素直に食いついた。

「そうなんですか? よかったです! さすが怜二さんですね」
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