目覚めたら、社長と結婚してました
「誰かさんに発破をかけられたからな」

 それが誰のことを指すのか、すぐにはわからず純粋に喜んでいた私はきょとんとした面持ちになる。そして彼の表情から自分のことを言われているのだと気づき、慌てた。

「え、私そんなきつい言い方しました?」

 たしかに挑発めいた言い回しではあったかもしれない。でも、怜二さんの表情は怒っているわけではなく、むしろ穏やかだった。

 もしかして、そのお礼のつもりなのかな? 考えすぎ?

 お礼なら本を借りているのは私の方で、むしろ私の方が彼になにかしなくてはいけない立場なのに。

「……お前はつらいときや落ち込んだときは、どうするんだ?」

 尋ねようとすれば、さらなる問いかけをされて私は意表を突かれる。

 どうしてそんなことを聞くんですか?という言葉を飲み込み、返答を迷いながらもおとなしく思うところを答えることにした。

「そう、ですね。とにかくポジティブに考えて前を向くようにしています。名前通り“強くたくましく前向きに”が私のモットーですから」

 力強く答えると、怜二さんの顔に疑問の色が浮かんだ。なので私は付け足すように続ける。  

「柚の木って強いんですよ。柑橘類の中では寒いところでも自生できる数少ない種類で、花言葉も健康美なんです。だから私、柚花って名前にふさわしく、どんなときでも前を向いて強く生きようって決めてるんです」

「……そうか」

 納得したのか、どことなく微妙な顔をしている怜二さんに私は首を傾げる。けれど追究を許さないように彼は続けた。

「で、捨てるのか? それとも、もらってくれるのか?」

 私は気まずい気持ちになりながらも頭を下げる。

「すみません、失礼な態度を取りました。今さらですが、いただいてもかまいませんか?」

 さすがになにか言われるかも、と身構えていると、怜二さんからまさかの提案をされる。
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