目覚めたら、社長と結婚してました
「訂正する。お前は単純なようで意外と複雑だからな」

「意外と、はなくてもよくありません?」

「そうだな。だから本ひとつで幸せそうにしてたらいいんだよ」

 平静を装って返すと、怜二さんは私から離れた。どこか切なそうな言い方になにかを返そうとしたが、私は思い留まってコーヒーを淹れることにした。

 リビングにコーヒーのいい香りが立ち込め、私はソファに座り買ってきた本を読み始める。怜二さんは自室に行くのかと思えば、私の斜め向かいのソファに腰掛けノートパソコンを開いた。

 私がいて気が散らないかな? もしかして私が自室に行くべきだった?

 気を揉みつつ彼の方に視線を送る。怜二さんは気にする素振りもなくじっと画面を見つめていた。

 真剣な眼差し、隙のない横顔。ネクタイをほどいているものの、やはり怜二さんは整った顔立ちをしていると思う。

 そんな彼が自分の旦那様なのだと思うと、私は改めて照れてしまった。雑念を急いで振り払い、本の世界に集中することにする。

 ところが百ページにも満たないところで、私は目を擦った。これから面白くなりそうなのに……。

「柚花?」

 目敏く怜二さんに声をかけられ、私は正直に答える。

「少し眠くなってきました」

 あ、また馬鹿にされるかも。

 しかし怜二さんはなにも言わず席を立ってこちらに近づくと、私の手から本を取って机の上に置いた。
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