目覚めたら、社長と結婚してました
「ベッドに行くか?」

「大、丈夫です」

「よく言う」

 怜二さんが困ったように笑う。どうしよう。おとなしく寝室に行こうかな。でも。

「ここで寝たら、駄目ですか?……そばにいたいんです」

 眠たくて頭の働きが鈍くなったのか、私は正直な思いを告げる。すると怜二さんはなにを思ったのか私の隣に腰掛けてきた。

 意味が理解できず彼の方を見ると、肩を抱かれ引き寄せられる。驚きで一瞬だけ目を見開くと、私はそのまま彼の膝を枕にする形で倒れ込んだ。

「えっと」

「ほら、そばにいるからさっさと寝ろ」

 言葉遣いは乱暴なのに対し声は優しい。子どもの頃ならいざ知れず、大人になって膝枕をされるなんて初めてだ。ましてや男の人になんて。

 心臓が早鐘を打ちだし、言い知れぬ恥ずかしさもあって体勢も気持ちも落ち着かない。

 怜二さんはなにげなく私の髪先に指を通し、さらに労わるように頭を撫でた。

「ワガママ言ってごめんなさい」

「ワガママってほどのことでもないだろ」

 彼は私に触れるのをやめない。私もやめてほしくはない。徐々に意識が微睡み始める。

「怜二さんが隣にいてくれると、すごく安心するんです」

「……そうか」

 怜二さんが今、どんな顔をしているのかは確かめられない。彼にとって私はどうなんだろう。同じ気持ちだったら嬉しい。

 だって私に触れる手はこんなにも優しくて、温かい。

「怜二さん」

 私は瞳を閉じて彼の名前を呼んだ。

「よかったです。私たち愛し合って結婚したんですね」

 その言葉に彼の手が止まった、気がする。私は静かに眠りについた。
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