目覚めたら、社長と結婚してました
「記憶喪失!?」

 大きめの男性の声で、私の意識は水の中から浮かび上がったかのようにクリアになった。しかし体はすぐには動かせない。私はブランケットがかけられソファに寝かされていた。

「声がでかい。柚花が起きるだろ」

 刺さるような怜二さんの声。誰と話しているのか、どこかで聞き覚えのある声だ。

 ソファの向こう側のダイニングで会話しているらしい。私からは背もたれで死角だが、声の距離感で想像はついた。

 どうしよう。お客様が来ているのに、このままソファで寝ているわけにも。でもどんな顔でここから起き上がればいいの!?

 ふたりの視線を一気に引き受けるのは容易に想像できる。葛藤する私は結局、起き上がるどころか息をひそめて、この場をやりすごすことにした。

 怜二さんも起こしてくれたらいいのに……。

 聞こえてきた大きなため息はどちらにものなのか。

「怪我はたいしたことないってお前から聞いていたし、見舞いに行ったときもそんな事態とは知らなかったから。……悪かった」

 ここでようやく怜二さんの話している相手がわかった。玉城蒼士さんだ。私が歩道橋の階段から落ちる原因となった敏子さんのお孫さんで……。

「気にしなくていい」

「気にするだろ、普通。ようやくお前が結婚できたと思ったのに、相手がそのことも、お前自身のことも忘れているなんて。責任感じずにはいられるか」
< 126 / 182 >

この作品をシェア

pagetop