目覚めたら、社長と結婚してました
 私たちは愛し合って結婚したわけじゃなかったの!?

 リビングのドアが開く音がして私は肩を震わせた。怜二さんが戻ってきたらしい。

 どうしよう、と迷いながらもこのままじっとしていられず私はそっと上半身を起こした。

「起きたのか?」

 かけられた彼の声はわずかに動揺の色が混じっている。私は怜二さんの方に顔を向けられずうつむいたままだった。

 それを寝ぼけている、と勘違いしたのか怜二さんは静かにこちらに近づいてきた。

「どうした? 気分でも悪いのか?」

 心配そうに声をかけられ、なんだか泣きそうになるのをぐっと堪えた。

「……怖い夢、見たんです」

 顔が上げられない。今、怜二さんの顔を見たら、なにを喋るかわからないから。

「お前、読んでた本にモロに影響受けすぎだろ」

 怜二さんが苦笑しているのが伝わってくる。私が読んでいたのは海外ミステリー小説でたしかに、冒頭からなかなか強烈な殺人事件が起こる。

 なんとか同意しないと、と思ったところで、腰を屈めた怜二さんにそっと抱きしめられた。

「大丈夫だ、夢だろ」

 まるで小さい子どもにでも言い聞かせるような穏やかな声。頭を撫でられながら私はなにも言わず彼に身を委ねる。

 そう、夢ならいい。全部、夢なら。
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