目覚めたら、社長と結婚してました
 夕方になり怜二さんは会社に戻るらしく、私は玄関で彼を見送ることにした。

「柚花、極力早く帰って来るから。ちゃんと待ってろよ」

「私、そんなフラフラどこかに行ったりしませんよ」

 口をすぼめて返したものの、気持ちは複雑な感情が渦巻いたままだ。

 自分の動揺を悟られないように怜二さんをなんとか見送り、私は書斎のソファに腰を沈めていた。

 なんとか気を紛らわそうとするも、上手くいかない。

 先ほどの怜二さんと玉城さんのやりとりが何度も頭の中で再生される。読みかけの本をぱたりと閉じて私は膝を抱えた。

 そっか、そういうことだったんだ。

 おかしいと思っていた。半年前には『自社の社長』というくらいの認識の彼と結婚しているなんて。彼みたいな人と、むしろ恋愛結婚した方が不自然だ。

 お互い好みのタイプではないしお見合いでもないなら、なにかしら事情があったと考える方が自然なわけで。

『どうして私たちは結婚したんでしょうか?』

『結婚したいと思ったから』

 あれは私と、というわけではなく結婚自体のことを指していたんだ。

『怜二さんって結婚しても指輪とかするタイプではないと思っていたので』

『いい女除けだろ』

 彼はモテていたのも知っているし、それでいてがなかなか結婚せず、周りがヤキモキしているというのは噂で聞いていた。
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