目覚めたら、社長と結婚してました
 十二月に入ったある平日の朝、私は有休消化のため仕事は休みで比較的ゆったりと支度していた。

 怜二さんは出社するまで書斎で本を読んでいる。そろそろ呼びに行こうかと時計に目をやったときだった。彼が険しい顔でリビングに戻ってきて私に問いかけたのは。

「柚花。なんだよ、これ」

 彼の持っていたものを見て、私は大きく目を見張った。それはリープリングスの最終巻に挟んであった片方の欄だけ記入済みの離婚届だったから。

「最近、妙によそよそしいし。お前、俺と別れたいのか?」

 見たこともない怜二さんの表情に、私はすぐに否定する。

「ち、違います。そうじゃなくて」

「なら、なんなんだよ!」

「それは……」

 いつもより感情を露にした彼に私は言葉を失う。怜二さんも我に返ったのか、はっとした面持ちになり自分の腕時計を確認してから私の腕を掴んだ。

「柚花、今日は極力早く帰って来る。お前の話もちゃんと聞く。だから待ってろ、どこにも行くなよ」

 必死さが込められている彼の言葉に、私はぎこちなくも静かに頷いた。そのまま彼が私の腕を引いたので至近距離で視線が交わる。

「いいか。お前は俺のものなんだ、誰にも渡したりしない」

 射貫くような彼の眼差しと力強い言葉に、腕が離されてからも私はしばらく動くことができなかった。彼はさっさと踵を返し、家を後にする。

 「いってらっしゃい」も言えなかった。玄関のドアの閉まる音がして、私はその場にへたり込み両手で顔を覆う。

 私、なんで怜二さんにあんな顔――。
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