目覚めたら、社長と結婚してました
真剣です、お互いに本音をぶつけてみましょう
 外からの人工的な明かりが部屋に差し込み、エアコンの稼働音だけが部屋に響く。ソファで膝を抱えていると、ぱっとリビングの電気がついた。

 突然の明るさに眉をひそめ、目を瞬かせる。

「電気もつけないでどうした? てっきり寝ているのかと」

 私はゆっくりと立ち上がり、こちらに近づいてくる怜二さんの方に向き直った。

「おかえりなさい、怜二さん」

 彼の顔をしっかりと見て告げてから、私は顔をくしゃりと歪めた。

「ごめんなさい。待ってろって言われていたのに」

 怜二さんは一瞬、意味がわからないという顔をしたが、私が手にしているものに目を向け、状況を悟ったようだった。

 私が自分の欄だけ書いた離婚届を私は握りしめていたから。

「思い、出したのか?」

 確かめるように彼が尋ねてくる。

「……はい。変ですね、もっと嬉しそうな顔をしてくださいよ」

 複雑そうな顔をする怜二さんに、私は彼から視線を外して下を向いた。指摘しておきながら、きっと今の私の表情も彼と同じようなものだ。

「別れたいわけじゃなかったんです。これを書いたのは……覚悟、のつもりでした」

 震える声で私は口火を切った。今、怜二さんがどんな顔をしているのかは見えない。

 本当は彼の目を見て伝えるべきことなのに。覚悟と言っておきながら、それは怖くてできなかった。

「もしもこの先、怜二さんが私と一緒にいるのが嫌になったら、もしも怜二さんが本当に結婚したいって思える相手が現れたら……そのときは別れるつもりでいるって。ちゃんと割り切っているって」
< 141 / 182 >

この作品をシェア

pagetop