目覚めたら、社長と結婚してました
「死ぬまでですか?」

『見捨てるかよ。死ぬまでそばにいてやる』

 以前の彼の言葉を借りて尋ねると、怜二さんは肯定するように笑ってくれる。

「そうだ。にしても柚花の泣き顔、初めて見るな」

 彼の親指が私の目元を滑る。穏やかで、からかうような口調ではなかったが、さすがに私は恥ずかしくなった。泣くのなんていつぶりだろう。

「お、お見苦しいものをすみません」

「いや。少し安心した。それに、そういう弱いところを見られるのも夫婦の特権だろ」

 さっきから怜二さんの仕草や言葉一つひとつが、心に沁みて目の奥を熱くさせる。私は思いきって自分から彼に抱きついた。

「本当はずっと惹かれていました。本だけじゃなくて、怜二さんと一緒に過ごす時間がすごく楽しみで、大事だった。思い出作りのつもりだったのに、ずっと続けばいいなっていつのまにか願うようになって」

 いつからとか、これとか、はっきりしたきっかけはない。全部いつの間にか。私の固い決意も気持ちも、なにもかも彼に攫われてしまった。

 怜二さんはどうだったんだろう? それはゆっくり聞いていこう。結婚するまで時間を取れなかった分、これからは時間をかけてお互いの気持ちを伝えあっていけばいい。

 だって私たちは結婚したんだから。

 彼からそっと体を離し、私は下から覗き込むように彼と視線を交わらせた。

「私も頑張りますから、私だけじゃなくて怜二さんも一緒に幸せになってください」

 怜二さんは大きな瞳をさらに見開き、ややあって顔を綻ばせた。柔らかくて優しい表情で笑う。

「負けるよ、お前には」

 再び唇を重ねられ、今度こそ私は余計なことをなにも考えずに私は彼とのキスに溺れることができた。
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