目覚めたら、社長と結婚してました
「柚花ちゃん。来週、怜二は準備とかで来ないらしいけど、気にせずおいでよ」

「そうそう。むしろ俺とデートしよう」

 近藤さんと島田さんにそんなことを言われて、私は笑顔でお礼を告げてお店を後にした。

 怜二さんと二人きりになり、さらには二週間前のことが思い出され、静まっていた心臓が存在を主張しはじめる。

「怜二さん」

 今日は私がエレベーターのボタンを押そうとする彼に声をかけた。まっすぐに彼の目を見つめ、頭を下げる。

「今まで、ありがとうございました」

 突然のお礼に、彼は訝し気な表情になった。それを気にすることなく私は先を続ける。

「今日でリープリングスを訪れるのを、最後にします」

「それは」

「あ、怜二さんのせいとか、そういうのじゃないんです。私、結婚するんです」

 慌ててフォローして、そのついでくらいのつもりで、さらっと告げたのに、私の発言は場に沈黙をもたらした。

 怜二さんからわざとらしく目を逸らして下を向き、聞かれてもいないのに語りだす。

「両親のお世話になっている方の息子さんで、私も何度かお会いしたことがあるんですが、先方が是非!と仰ってくださって。私も二十六になりますし、いいかなって」

「で、どうして今日が最後になるんだ?」

 彼の声から感情は掴めない。
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