目覚めたら、社長と結婚してました
「それが……相手の方が、古風というか、わりと厳しい方で。女性がバーどころか夜にひとりででかけるなんて言語道断と言いますか。ピアスも、髪を染めるのも、よく思わない人ですから」

 事情を説明する私に、怜二さんは小さく鼻を鳴らした。

「つまらない男だな」

「やめてください。そんなことないです!」

 噛みつくように私は反論する。

「前に話した私の『恋をするためのリスト』にぴったり当てはまる人なんですよ。優しそう、誠実、真面目、煙草もギャンブルもしない、浮気もしそうにない。それから……」

 そこで私は口をつぐむ。怜二さんに今こんなことを必死で訴えてどうするんだろう。

「とにかく結婚する相手の意向を無視するわけにはいきませんから。その代わり、結婚したら難しそうなことをしてみようと思ったんです。バーに行くのも、夜遊びするのも、ピアスの穴を開けるのも」

 一つひとつを思い出して噛みしめる。まさかこんなに連続してバーに通うことになるとは予想もしていなかったけれど。 

「ちゃんと叶えられました。だから心残りもありません。そんな私のワガママにたくさん付き合ってくださったこと、感謝しています」

「たいしたことはしていない」

「キスもですか?」

 すかさず切り返すと、怜二さんが目を見張った。彼を少しだけでも動揺させられたことに、こっそりと満足する。私は無理矢理笑顔を作った。
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