目覚めたら、社長と結婚してました
「この週末、両親が帰国して来週の頭にでも相手の方とご両親にお会いするんです。さすがに婚約っていう形をとってしまってからはまずかったと思いますが……」

 自分からなかったことにする、と言ったのに。こんなふうに話題に出して彼も困っているに違いない。でも最後だから許してほしい。――最後、だから。

「……ひとつワガママ聞いてもらえませんか?」

 そんなに大きくない声は静かなフロアによく響いた。彼の返事を待たずに私は続ける。 

「リープリングスの結末を教えてほしいんです」

 今日借りた本は、昼に来て近藤さんにでも預けておこう。ただ、彼から最終巻を借りるのはもう難しい。会社でも一切接点はないし。

 ここまで来たら終わらせておきたい。自分の中で完結させよう。そして、結末はできれば怜二さんの口から聞きたい。

「そんなに気になるのか」

「気になりますよ。だってルチアに婚約者ですよ? しかもルチアの作った『恋をするためのリスト』にぴったり当てはまる青年なんて。ルチアも結婚する気だし、マーティンも動きそうにないし。やっぱり主役ふたりは……」

「あれは好みのタイプを並べたリストなんかじゃない」

「え?」

 私の言葉を遮った怜二さんは、射貫くような眼差しをこちらに向けてくる。

「ルチアは婚約者の存在も知っていたし、結婚を逃れられないのもわかっていた。だから、あれは婚約者を好きになるために、正確には“婚約者と”恋をするためのリストだったんだ」

「そう、だったんですか」

 私は力なく答える。まさかずっとルチアが大事にしてきたリストが、そんなためだったなんて。
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