目覚めたら、社長と結婚してました
「お前は、どうなんだ?」

 続けられた言葉に私は動揺を隠せない。

「私は……」

「そもそも、おかしいだろ。なんで好みのタイプで“優しそう”や“浮気しそうにない”なんて言い方をする? 誰のことを指してるんだよ」

 彼の言葉で、頭の中に六月に両親が帰国したときのやりとりが思い浮かぶ。

『柚花、本当にいいのか? 断ってもお父さんたちは……』

『なに言ってんの! この話を受けないと新規店舗の出資を断る、なんて言われてるんでしょ? もうオープンも間近に控えて、従業員まで確保してるのに』

 両親から持ち掛けられたお世話になっている岡村幸太郎さんの息子さんとの縁談話。ご本人はともかく、息子さんには二、三回しか会ったことがないから印象がどうしても薄い。

 たしか私よりも五つほど年上だっけ?

 あまり話し上手な人ではないのに自分の主義、主張だけはしっかりしている、そんなイメージ。本を読むのが好きだと話したときも『そんなに本を読んで、なにが楽しいんです?』と嘲笑されたのはよく覚えている。

 正直言って彼が私に好意を抱いているということ自体、信じられない。

 でも、これは向こうから言ってきた脅しつきの結婚話だ。私は両親の心配を吹き飛ばすように笑いかける。

『大丈夫。これもいい縁だって思ってるから。べつに付き合っている恋人がいるわけでもないし、彼のことを好きになって、幸せな結婚生活を築いてみせるって』
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