目覚めたら、社長と結婚してました
 だって私は“柚花”だ。どんな状況でもめげずに強く生きる。プラスに考えたら、未来はきっと明るくなる。幸せにしてもらおうとは思わない。私は自分で幸せになるんだ。

 まずは彼のことを好きになろう。悪いところばかり目を向けてもしょうがない。

 優しそうで、誠実そうで、真面目で……。ほら、いい人だ。きっと好きになれる。

 差しさわりのないことしか書けないくせに。小説のヒロインに倣って作ったリストを眺めながら、虚しさには気づかないよう必死だった。


「好きでもない男と結婚できるのか?」

 怜二さんの問いかけに我に返る。彼の見透かすような眼差しが怖くなり、逃げるように下を向いた。

「で、できますよ。怜二さんだって言ってたじゃないですか」

『立場的にもしないと周りもうるさいからな。適当に相手は見繕う』

『結婚自体は簡単だろ。婚姻届を書いて受理されたら成立だ。利害の一致さえすれば結婚生活も難しくはない』

 冷たくて、でも合理的で。私もそう考えられたら、割り切れたら……。

「お前は、そんな割り切って結婚できるような女にも思えないけどな」

 怜二さんからかけられた言葉は、今は私にとって毒でしかない。

 なにそれ。私のことをわかっている、みたいな言い方はやめてよ。社長として一社員の心配なら大きなお世話だ。

 もういい。今さら揺らぐ必要なんてなにもない。べつに自己犠牲とか悲劇のヒロインとか、そんなふうにも思っていない。
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