目覚めたら、社長と結婚してました
「最終巻は俺のマンションにある。気になるんだろ、だったら読みに来い」

 私は力なくよれよれに言葉を発した。

「……女性を、家には上げない主義なんでしょ?」

「そうだよ、だからお前だけだ」

「私のこと、好みじゃないんでしょ?」

「ああ。とてもじゃないが、適当に手を出す気になんてなれない」

「キスしたくせに」

「だから……」

 私の切り返しに怜二さんは眉根を寄せる。怒らせたかな、と不安を抱く前に彼に強引に口づけられた。

 この前のキスとは違って、長くて甘い。唇か離れるか、離れないかを繰り返しながら何度も唇を重ねられる。キスの合間に怜二さんは意地悪く告げてきた。

「これでなかったことになんて、もうできないだろ。不貞行為で破談にされてこい」

「ひどっ。まだ正式に婚約してませんって」

 それどころか、婚約するであろう本人に会ったのでさえ、いつぶりか。記憶の中の彼は曖昧だ。とはいえ両親の立場だってある。段取りもされているのに、投げ出すわけには……。

 立ち込める不安を払いのけるように、怜二さんはキスで口を塞いできた。

「なら、余計なことを考えるな。お前はおとなしく流されてればいいんだよ」

 流されるなんて冗談じゃない。私はそんな意志薄弱じゃない。知ってるでしょ?

 全部、私の意思なのに。こうしてキスしているのも、溺れていくのも。それさえも言わせてもらえる隙をくれない。彼に奪われるのを望んだのは私自身だ。
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