目覚めたら、社長と結婚してました
 そこからの怜二さんの行動は早かった。私の両親に先に挨拶をするよう段取りし、不本意な娘の婚約話を進めるために帰国した両親は、寝耳に水の状態で動揺を隠せずにいた。

 その際両親から『岡村さんの息子さんとの結婚話は自分たちがどうなっても断るつもりでいる』という話をされ、少しだけ泣きそうになった。

 そんな気がかりだった岡村さんのことまで、怜二さんの方で話をつけてくれたのには、感謝を通り越して恐縮するしかない。

『よかった。やっぱり柚花には好きな人と恋愛結婚をしてほしかったから』と母に言われ、私は苦笑するしかなかった。

 対する怜二さんのご両親の挨拶は反対されるのでは、という心配もあってものすごく気後れした。しかし心配は杞憂で、自分の息子が結婚することを手放しに喜び、感謝される始末だ。

 怜二さんが出張を控えていたのもひとつの要因となり、事態は驚くほど短期間で話はまとまった。彼は結婚指輪と婚姻届けをさっさと用意し、私の誕生日に入籍することを提案してきた。

 あまりの急展開ぶりに『そんなに籍を入れるのを慌てなくても……』と一応言ってみたが、彼は頑なに譲らなかった。

 怜二さんがかまわないのであれば、私も拒否することはない。付き合った期間はほぼゼロに等しいけれど、不思議と不安も心配もなかった。

 むしろ嬉しい。こんな温かい気持ちで結婚できるって一週間前の自分には想像することもできなかった。それは全部、相手が怜二さんだからだ。

 私、幸せだ。だから私も彼のことを幸せにしたい。私にできることはなんだってしたい。

 ずっと自分が幸せになるためにはって考えて行動していたから。誰かのためにって思える自分に驚く。これが結婚するってことなのかな? 私、彼を幸せにできる?

 幸せにするから。彼が私を望んでくれるのなら。
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