目覚めたら、社長と結婚してました
 ふと回されていた腕の力が緩んだので、彼の胸から顔を浮かせて上目遣いに怜二さんを窺う。するとお互いの息遣いが感じられるほどに顔を寄せられた。

「本当に、お前だけだよ。どうしてくれるんだ」

「ど、どうしましょう?」

 とっさの反応に困り、おどけてみせたが怜二さんの表情は真剣そのものだ。おかげで私は一瞬ためらいつつも、自分から彼の口づけた。音を立てて、軽く唇が触れ合う。

「私、好きでもない人とキスしませんけど?」

「よく言う。好きでもない男と結婚しようとしていたやつが」

 怜二さんの返答に私は言葉に詰まる。私が口を開きかけたところで怜二さんが先を続けた。

「正直、不安だった。俺のしたことは、柚花と結婚しようとしていたやつと大差ないからな。お前の気持ちを無視して、選択肢を与えなかった。おかげで結婚したのに全然手に入った気がしなくて、いつかあっさりと俺の前からいなくなるんじゃないかって」

「そんなことないです!」

 夜中だというのに強めの声が出てしまい、慌てて口を閉じる。ぐっと息を飲んで私は調子を整えた。 

「怜二さんは彼とは全然違います。なんだかんだ言って、怜二さんはいつも私の気持ちを優先してくれて、大事にしてくれて……。それを言うなら、私だって怜二さんの気持ちがわからなくて不安でした。たとえば、その、結婚したのにまったく手を出されないし」

「そこかよ」

「いや、だってあの怜二さんがですよ!?」

 消え入りそうな声で白状したのに対し、あまりにもあっさりした返事に条件反射でツッコむ。怜二さんは顔をしかめた。
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