目覚めたら、社長と結婚してました
「お前は俺をなんだと思っているんだ」

「言った方がいいです?」

 聞き返すと、途端に怜二さんの顔がさらに渋くなる。ただ怒っているわけではないらしく、私の頬に自分の指を滑らせた。

「お前はきっと、俺が求めたら応えただろ。自分の気持ちを差し置いても、夫婦だからしょうがないって。そういうのは嫌だったんだ」

 彼の指が頬から顎をなぞるように移動し、唇に親指が触れた。

「体だけが欲しいわけじゃない。無理させたら意味がないんだ。柚花の気持ちがこちらに向くまでいくらでも待つくらいの覚悟はある」

「もうとっくに向いてますけど?」

 間髪入れずに私は口を挟んだ。心臓が加速しはじめて痛みだす中、必死に言葉を紡ぐ。だって、ちゃんと伝えないと。

「結婚してから恋をすればいいって思っていました。でも怜二さんには、とっくに恋に落ちていましたよ。……それに私、記憶をなくしてもやっぱり怜二さんのことを好きになったから。どんな私でも、求めるのは怜二さんだけなんです」

 緊張で声が震えきつく目を瞑ると、おもむろに口を塞がれた。

「ふっ」

 固く引き結んだ唇をほどくように触れるだけの口づけが何度も繰り返される。キスを受け入れながら無意識に彼のパジャマを掴むと、怜二さんはなだめるように私の頭や髪を撫でてくれた。
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