目覚めたら、社長と結婚してました
「怜二さんもきっと驚くと思ったのに……」

 そこまで落ち込むことだろうか、と思ったが柚花はこちらに黙って歩み寄って来た。

 そして真正面までやってくると、おもむろに抱きついてくる。こちらは座っていたので抱き留める形になった。

 そのまま彼女を自分の膝の上に横抱きにするように乗せると、柚花はおとなしくこちらに身を寄せてきた。密着したところから体温が伝わり、彼女からはかすかに甘い香りがする。

 言葉を発しない彼女に俺は改めて問いかけた。

「なに拗ねてんだよ」

「拗ねてませんって。ちょっと空回った自分を居た堪れなく思っているだけです。怜二さん、なんでも先回りしすぎです」

 口を尖らせる彼女の頭をそっと撫でる。出会ったときに比べると彼女の髪もずいぶんと伸びた。

「そんなことないだろ」

「だって、全部私のことはお見通しって感じですし」

 むすっとする柚花に対し俺は苦笑する。

 全部お見通しなんて見当違いなのもいいところだ。柚花と出会ったときには、こんな未来が訪れるなんて予想もしていなかった。

 穏やかで満たされる。色々と冷めきっていた自分が、幸せだと思える結婚生活を送れるとは。
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