目覚めたら、社長と結婚してました
 お互い、第一印象は最悪だったのは間違いない。

 あのときの俺は親の勧めで会わされた社長令嬢に気に入られ散々な思いをしていた。女への嫌悪感が増す中、限られた人間しか知らないバーで酒を飲みながらゆっくりと本を読んでいたときだった。

『社長』

 彼女に声をかけられ、すぐに反射的に顔をしかめる。見るからに純朴そうで、控えめな印象。こういった場に慣れていないのがすぐに読み取れる。

 ちらりと耳に入ってきた会話からバーに来たのも初めてだと聞いていた。『お前もか』という気持ちが拭えない中、厳しい口調で畳みかけるように詰め寄った。

 こういうのには最初からわからせておいた方がいい。

『そもそもお前みたいなのはタイプじゃない』

 跳ねのけるように彼女にぶつけた言葉を、後々後悔することになるとは、このときは思いもしなかった。

 結果、返ってきたのはまっとうな反論と意志の強い口調と眼差し。だから俺はすぐに折れた。

 『本を貸してやる』と言ったのは罪滅ぼし半分、リープリングスというなかなかマニアックな本を好む人間に珍しく出会ったのもあった。

 きかっけは些細な事、それが俺と柚花の出会いだった。
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