目覚めたら、社長と結婚してました
 いつもなら酔われると面倒にしか思わないのに、まったく羽目を外さない柚花をもどかしく思ったりもした。下心ではなく、きちんと送ってやるから、たまには好きに飲んでみればいいと思ったりもした。

 そうやってしっかりしているように見えて、子どもみたいなところもある。

 彼女が『夜遊び』と口にしたときは一瞬焦ったりもしたが、内容にすぐに毒気は抜かれる。

 なにをそんなに必死になっているのか、とも思った一方で彼女らしい内容に呆れるような安堵するような。

 近藤さんも同じことを思ったのか、それとなく彼女の夜遊びをたしなめた。

「柚花ちゃんみたいな子は、そういうことをひとりでしない方がいいよ」

「え、どうしてですか?」

 シュンとする彼女に密かに笑みがこぼれそうになりながら俺は横やりを入れた。

「ほいほい誰にでもついていきそうだからじゃないか?」

 しょげていた柚花はすぐにむっとした表情になった。さらに嫌味なく俺に対して『どんな夜遊びをするのか』と聞いてきたときは、さすがに答えに窮する。

「で、お前の夜遊びはいつする予定なんだ?」

 彼女が自分のところの社員だから、というのは建前だ。純粋に彼女のことが心配だった。そしてなにより柚花のことを知りたくて、このバー以外でも一緒にいてもいいと思った。

 いつもの軽快な応酬を交わしてそう思う。本を貸すという名目以上にここに毎週通うようになったのは、彼女に会いたいからだ。
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