目覚めたら、社長と結婚してました
 だから、彼女が『恋をするためのリスト』のときを話題にしたときは少なからず心が揺れた。

 小説の中でヒロインが作っていたものだ。最終巻でネタバレがあるのだが、このときの柚花はもちろん知らない。

「優しそう、誠実、真面目、煙草もギャンブルもしない、浮気もしそうにない。そして……なにより大事なのは、私と恋をして、すごく愛してくれることです」

 彼女の言い方にどことなく違和感を覚える。それにしてもどれも当然というか、表面的というか。あえてリストにする内容でもないように思えた。

「くだらないな」

「はいはい。ほら、心配しなくても私の好みのタイプだって怜二さんとは正反対でしょ?」

 反撃のように告げられた言葉に、つい眉をひそめる。わかってる、最初に『タイプじゃない』と言ったのはこちらだ。

 腹を立てるほどのことでもない。それなのに苛立つ気持ちが抑えきれず、俺は柄にもなく真面目に返した。

「俺はギャンブルはやらない」

 それに対し、彼女はこちらを見ることもなく取り合わない。なにをムキになっているんだ、俺は。

 そう思った次の瞬間、ほぼ無意識に俺は柚花の方に手を伸ばしていた。

 指が白くて滑らかな頬に触れ、その感触に驚く。誤魔化すかのように軽くつねると、俺はすぐにぱっと手を離した。

 案の定、彼女からは抗議の声が飛ぶ。それをいつもの調子で返したが、自分の中では動揺が広がっていた。
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