目覚めたら、社長と結婚してました
 岡村氏と柚花の両親が共同経営者とはいえ、対等な立場ではないことは彼女の話から窺えていた。

 だから、なんだ?

 イラつきながら湧き出る疑問に答えは出せない。近藤さんが肩を落として続けた。

「一目惚れと言えば聞こえがいいかもしれないが。岡村さん自身がそうだけれど、昔ながらの亭主関白の人だから。女は三歩下がって男について来いとでもいうような。息子さんが見初めたのもそういった理由らしい」

 なるほど。黒髪のストレートに色白で華奢な体、一見すると柚花の纏う雰囲気はおとなしそうという印象を抱かせる。実際中身はそんなもんじゃないが。

「柚花ちゃんは、どういうつもりなんだろう」

「そりゃ、嫌に決まってるだろ。両親のためにしょうがなく、なんて可哀相だ。ましてや岡村さんのとこなんて……俺がなんとかしてやろうか」

 島田さんが珍しく激昂する。近藤さんは眉間に皺をよせて複雑そうな顔をしていた。

 ああ、そういうことか。

 今までの彼女との会話が思い出され、俺はひとりで納得していた。

『とにかく今の私は自分の目標を達成することに忙しいんです。……時間は限られていますから』

『……もしくは、ピアスの穴なんて開けなくていいってことだったのかもしれません』 

 それに、あの彼女が作ったというリスト。

『たいした内容じゃないですよ。ルチアに似ています。優しそう、誠実、真面目、煙草もギャンブルもしない、浮気もしそうにない。そして……『なにより大事なのは、私と恋をして、すごく愛してくれることです』』
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