目覚めたら、社長と結婚してました
『よかった。やっぱり柚花には好きな人と恋愛結婚をしてほしかったから』

 ところが柚花の両親に挨拶した際、安堵する彼女の母親に告げられたとき、俺は言い知れぬ罪悪感を抱いた。

 俺も柚花と結婚しようとしていた男と同じようなものだ。ただ同じ条件でも柚花はそいつではなく俺を選んだわけだが。

 出張を控え時間もゆっくりとれない中で、とにかく籍を入れることだけは譲らなかった。帰ってきて『やっぱりなかったことにして欲しい』と言われるのは御免だった。

 そうやって始まったぎこちない新婚生活。結婚前に何度かキスを交わしたからか、柚花も抵抗はしなかった。ためらいがちにもくっついて甘えてくる。

 とはいえ内心では複雑だった。これは相手が俺だからなのか、結婚したからなのか。彼女の本心を探ろうにも、気を使われるのは嫌だった。

『新婚生活はどうだよ? あんなに周りから言われても結婚しなかったお前が結婚したんだ。一部界隈では大騒ぎだぞ』

 深夜に電話をかけてきたのは友人の玉城だった。これでも俺の結婚に対しては身内ばりにやきもきさせていたらしく、喜んでいるのだと捉えておく。

「大袈裟だろ」

『よく言う。奥さんは幸せだな。抱えていた両親の問題も解決し、さらにはお前みたいな男と結婚できたんだから』

 弾む声とは裏腹に、わずかに眉を寄せた。事情を知っている人間からもそう見えるのかもしれない。ただ柚花本人はどう思っているのか――
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