目覚めたら、社長と結婚してました
「喧嘩ってほどのことじゃない」

「聞いたところによると私が悪かったみたいです。ごめんなさい」

 敏子さんに私は『自分が悪かった』と言っていた。そうなると覚えていないとはいえ、やはり謝っておきたい。

「謝らなくていい。お前が悪いわけじゃない」

「じゃぁ、社長が悪いんです?」

「そうかもな」

 あまりにもあっさり肯定されて私は目を丸くする。さらに、どこか切なそうに彼が顔を歪めたので、私はわざとらしくおどけてみせた。

「……新婚早々、浮気でもバレました?」

「お前なぁ」

 どっと脱力して、彼は肩を落とした。雰囲気が切り替わったことに内心で安堵する。対する社長は苦虫を噛み潰したような顔になった。

「浮気なんてするわけないだろ」

 きっぱりとした言い方に私は純粋に感心してしまった。

「社長って思いのほか、真面目だったんですね」

 浮気云々はもちろん半分冗談だ。でも彼は女性に困る人ではなかったし。いつも連れている女性は違っているって噂で聞いていたから。

 それこそ私とは正反対の、華があって上品な美人ばかりだって。そこで胸がわずかに痛んだ。この痛みにどこか覚えがあってわけがわからなくなる。
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