目覚めたら、社長と結婚してました
「す、すみません。お手数おかけしました。でも私はご覧の通り、大丈夫ですからっ」

 ところが、そこで目眩を起こして、体がぐらりと揺れた。すぐさま社長が両肩を支えてくれたので、倒れ込むことはなかったものの、やはり頭が重い。

「無理するな。頭打ってんだぞ」

 思ったよりも労わるような声色に動揺する。肩に添えられた手は大きくて、温かい。モテるとは聞いていたけど、一社員に対して、こんなにもさりげなく触れてしまえるなんて。

 いや、彼は人として当然の優しさを見せただけなのかも。私が免疫なさすぎるんだ、きっと。

 そこで再び扉がノックされ、さっきの看護師さんと中年の小太りだけど穏やかそうな医師が入ってきた。社長は私から手を離し、ふたりに軽くお辞儀する。 

「天宮さん、気分はどう、吐き気は?」

 先生に尋ねられ、私は首を傾げる。妙な沈黙が走り、私はベッドサイドにいる社長を見上げた。するとなぜか、彼もこちらを不審そうに見ている。

「あのー。社長、聞かれてますけど?」

 おずおずと問いかけると、彼は眉間に皺を寄せた。

「なんで俺なんだよ。お前のことだろ」

 たしかに質問内容はどう考えても私のことだった。でも先生は『天宮さん』って。あれ? 先生、言い間違えた? それとも私が聞き間違えたの?

 混乱している私に、先生は社長とは反対側のベッドサイドに立って、再度ゆっくりと口を開いた。
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