目覚めたら、社長と結婚してました
「あの……怜二さん」

 これもひとつの原因だ。二回目に会ったときに『社長』と呼びかける私に彼は渋い顔を見せた。

『ここで、社長って呼ぶのはやめろ』

『やめろと言われましても……』

 困惑する私に近藤さんが助け船を出した。

『この前、柚花ちゃんが帰った後、島田さんとついからかったからな。『怜二が社長とは、俺たちも年を取るはずだ』って』

 なんでも近藤さんや島田さんは社長のお父さんと知り合いで、社長を幼い頃から知っているらしい。おかげで彼らの前で社長と呼ばれるのはどうもむず痒いんだとか。

 事情を聞いて、納得しつつも私はやっぱり困った。

『なら、なんとお呼びしましょうか? 天宮さん?』

『それはここでは親父のことだから、名前でかまわない』

『えっ……』

 目を丸くする私に近藤さんが大きく頷いた。

『大丈夫、柚花ちゃん。俺が許す。こいつのことは好きに呼べばいいよ。なんなら親しみを込めて『怜ちゃん』って呼んでやれ』

 社長の整った顔が嫌悪感で歪む。ただ言い返せないところが、ここでの彼の立ち位置を表している気がして少しだけ微笑ましく感じる。

 そこで軽く頭を振って考えを切り替え、私は社長の方に視線を移した。

『すみません。では、ここでは怜二さんと呼ばせていただきますね』

『こっちが言い出したんだから謝らなくていい』

 ぶっきらぼうな言い草なのに嫌な感じはしない。むしろ照れ隠しのように思えて、つい笑みがこぼれてしまった。
< 40 / 182 >

この作品をシェア

pagetop