目覚めたら、社長と結婚してました
「そういうところだって」

「なるほど」

 いつもの調子でやり取りを交わしていると、控えめな笑い声が聞こえてきた。視線を前に向けると、グラスを拭きながら近藤さんが相好を崩している。

「怜二とここまで本のことで盛り上がれる相手がいるとはね。本の話をしているからか、怜二と柚花ちゃんがリープリングスの主役ふたりに見えてきたよ」

 どういう意味で受け取っていいのか私は迷った。すると怜二さんが先に返す。

「やめろよ、近藤さん。トラブルメーカーとはいえ、ルチアは賢くてもっと美人だ」

「あ、言いましたね。そんなこと言ったらマーティンは怜二さんより……」

 そこで言葉に詰まる。なに? カッコいい? でも怜二さんも十分に目を引く外見だし、聡明なのは十分に伝わっている。

 逆に怜二さんはマーティンに少しだけ似ているかも。作中の彼は、いつもクールであまり感情を表に出さない。ヒロインであるルチアにも冷たい印象だ。

 しかし、いざというときは優しくて彼女のことを大事にする。

 そのギャップに虜になるファンは少なくないだろう。現に私もそのひとりだ。今は微塵もそんな気配はないが、最終的にはこのふたりがくっつくと信じて読み進めている。

 私は改めて怜二さんを見やった。

「マーティンは怜二さんよりも硬派で女性に対しても真摯ですから」

「その台詞、今持ってる本を読んでからも言えよ」

「え、うそ!? って、ネタバレやめてください」

 悔し紛れに突っついたところで、思わぬ切り返しだ。今日借りた本のページを今すぐ捲りたい衝動をぐっと我慢する。
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