目覚めたら、社長と結婚してました
 溜めている気持ちも合わさり、私は大きく息を吐いた。

「女性嫌いなのに、なんで女の人と付き合うんですか」

「向こうから寄って来るんだからしょうがないだろ。遊びと割り切ってるなら別にいい。それ以上を求められるのは鬱陶しいし、あいにく結婚願望もない」

 吐き捨てるような彼の言い分に近藤さんが口を挟んだ。

「天宮さんが聞いたら泣くぞ。いい縁談話を持ち掛けてもまったく興味を示さないし、あの一件でもう諦めたって」

 咎めるというより諦めたという口調。あの一件というのは、なんでも両親に言われて無理矢理会わされた社長令嬢が、かなり怜二さんを気に入って大変なことになったんだとか。

 仕事のスケジュール、訪問先、普段プライベートで訪れる場所まで徹底的に調べ上げられ、行く先々に現れた彼女は怜二さんに交際を迫ったという。

 元々モテるし女性のあしらい方にも長けている彼だが、そこまでされたときはさすがに参ったようだ。

 お金と権力を持つ人はすることが大胆すぎる、と私は他人事だから思った。当の怜二さんにとっては笑えない話だけれど。

 最終的には波風を立たせないよう断ったものの彼の徒労感は半端なかったらしく、両親もあれこれ口には出しはするが直接縁談などを持ちかけるのは控えるようになったらしい。

 その出来事があってすぐにここで私と出会い、あんな態度を取ってしまったというわけだ。

「家まで押しかけられなくてよかったな」

「セキュリティも十分だし、そもそも女を家に上げたこともないし、上げるつもりもない」

 跳ね除けるような言い方をする怜二さんに、私はおずおずと尋ねた。
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