目覚めたら、社長と結婚してました
「怜二さんは結婚されるつもりはないんですか?」

「いずれはするさ。立場的にもしないと周りもうるさいからな。子どもも言われているし。適当に相手は見繕う」

 自分のこととは思えないような冷めた返答だった。私はさらに踏み込む。

「適当に、で結婚できますか?」

「結婚自体は簡単だろ。婚姻届を書いて受理されたら成立だ。利害の一致さえすれば結婚生活も難しくはない」

「柚花ちゃん、この最低男に一言言ってやれ」

 近藤さんからの突然のパスに私は一瞬、まごついた。怜二さんの鋭い視線が投げかけられたから余計にだ。

「その……いいと思いますよ。どんなきっかけで結婚したとしても、それから恋をして相手のことを好きになればいいんですから」

 私の回答に近藤さんと怜二さんは目を見開いたまま固まっていた。彼らの反応が理解できず首を傾げると、近藤さんが豪快に笑いだす。

「そっか、そうだよな。恋をできるような相手を見極めて結婚しないと。それくらいはやってもらわないとな」

 私に、というより怜二さんに対し近藤さんはおかしそうに訴えかける。言われた彼は途端に仏頂面になった。

「私、なにかおかしいことを言いました?」

「いやー。おじさんとしては柚花ちゃんにはそのままでいて欲しいところだね」

 不安で近藤さんに尋ねたが意味がわからない。すると隣から返事があった。

「お前はそんな夢見がちな考えだから結婚どころか彼氏のひとりもできないんだな」

「お、大きなお世話です! それに私っ」

 言いかけて慌てて口をつぐむ。怜二さんの不審そうな視線から顔を逸らし、ぐっと唾を飲み込んで調子を戻した。
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