目覚めたら、社長と結婚してました
「そんな子どもじゃありませんって。なら、教えてくださいよ。怜二さんはどんな夜遊びをしますか?」

 その問いに怜二さんはグラスを口に運んでいた手の動きを止めた。私は彼をまっすぐに見つめる。しばし彼は迷う素振りを見せて、グラスを揺らしてから口を開いた。

「お前と遊んでやってるだろ」

 私は目をぱちくりとさせ、続けて不満げな顔になった。

「……私、怜二さんに遊ばれていたんですね」

「その言い方はやめろ」

「言われ慣れているんじゃないです?」

 どう考えても誤魔化された答えに私はつい可愛くないことを告げる。

「でも、本当。柚花ちゃんが来てからこいつ、毎週ここに通うようになったんだよ。前は一ヵ月に一回くらいだったのに」

 近藤さんの補足に私は怜二さんを二度見した。その視線を受けてか怜二さんは気まずそうにグラスに口づける。

「本の続きが気になる気持ちはわかるからな」

「すみません、わざわざ……」

 さっきまでの態度はどこへやら。しおらしく私は身を縮めた。ちょうどグラスも空いたので近藤さんに声をかけ、そのまま会計を済ませる。席を立つと怜二さんも当然のように腰を浮かした。

 最近、私が帰るのに合わせて彼もお店を出るのが当たり前の流れになっていた。そして同じタクシーに乗って家まで送ってくれる。

 最初に提案されたときは断固拒否したものの『お前相手に送り狼になるとでも思ってるのか?』とあからさまに不本意だという顔で言われ、初めて会ったときの台詞もあいまって私の遠慮や申し訳なさは消え失せた。
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