目覚めたら、社長と結婚してました
「“天宮”柚花さん。いくつか質問に答えてくれるかな?」

 はっきりと声にされ、聞き間違いじゃなかったことを悟る。とはいえ、意味が理解できない。黙ったままでいる私に、先生と看護師さんは心配そうな顔を向けてきた。

「どうした?」

 社長にも尋ねられ、私は勢いよくそちらに顔を向けた。

「あのっ……社長と私って実は兄妹だったんですか?」

「はぁ? お前、本当になに言ってんだよ」

 怒りでも呆れでもなく、社長は不安そうに返してきた。自分でも馬鹿なことを言っていると思う。でも、だったらなんで? どういうこと?

 私は平松柚花だ。それなのに、先生も確認するように私のことを「天宮さん?」と呼んでくる。

「なん、で?」

 無意識に両手で頭を抱えようとすると、視界の端に光るものを捉えた。それを確認するようにゆっくりと左手を自分の顔の前にかざす。

「なに、これ」

 驚愕でしかない。これがなにを意味するのかなんて小学生でも知っている。私の左手の薬指には、綺麗な曲線を描いて、見たこともない宝石が埋め込まれている指輪がはめられていた。

 頭がずきりと痛んで、身を縮める。わけがわからない。ドッキリにしては盛大すぎる。もしかして夢?

 遠のく意識の中、彼が私のことを「柚花」と呼んだのがやけに耳に残った。
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