目覚めたら、社長と結婚してました
 意外と重さがある。中を見れば新書二冊と文庫が三冊ほど入っている。

「あ、このシリーズ新作出たんだ!」

 中身を確認して私は声を弾ませた。前の巻を読んでからまだ一年も経っていないのに……って、半年分の記憶が抜けているからそう思うだけか。でも少しだけ得した気分かも。

 自分でも単純だと思う。落ち込んでいた気持ちがわずかに浮上する。

 好きな作者の新シリーズや、まったく知らない作家のものもあったけれど、あらすじを読むだけで私好みだと判断する。文句なしのセレクトだ。

「『読むのに夢中になって休息を怠らないように』ですって。愛されてるわねー、柚花」

 伯母の声が横から飛んだ。私の本好きを彼は知っているんだ。さらには好みの系統まで把握されているとは。

 愛されている、のかな?

 確信も自信も持てないのがなんとも悲しい。嬉しさよりも、込み上げてくるのは切なさだ。袋に本を戻し、ぎゅっと抱える。

 私は彼のことを全部忘れてしまったのに。

 それにしてもまた眠い。頭の中に靄がかかっているようで、私はつい眉をひそめた。そのまま目を閉じ、シートに頭を沈めてなにも考えないようにする。

 車の微妙な振動は心地いい。吹き出し口から出てくる温かい風の音がやけに耳についた。
< 50 / 182 >

この作品をシェア

pagetop